癌患者と夏の日

この夏、長年来られている患者さんのご主人が癌で亡くなられた。
49歳だった。
腎臓癌が二年前に発覚、左腎を摘出後、肝臓に転移し、
肝臓の一部を摘出したにも関わらず、再発。
本人は悩んだあげく、最後の手段であるインターフェロンを断り、
漢方や鍼灸、食事療法などで、自然のまま逝くことを選んだ。

私は奥さんを、10年近く治療している。
彼女は生まれつき脳性麻痺を患っており、言語障害と肢体不自由がある。
筋拘縮がひどく、車いすになりかけていたのを、鍼灸を続けることにより救った。
彼女は流暢に話せない分、文章が得意だ。
自分の障害すらも笑い飛ばしてしまう、知的でユーモアたっぷりの、
素晴らしいそのセンスには脱帽するほどである。

私は彼女との付き合いの中で、障害者とは決して特別な存在ではなく、
普通の人と何も変わらない存在なのだということに気付かせてくれた。
今や友人のような関係。
そのくらい彼女は、障害者であっても全く障害を感じさせない。

国立大を出て、社会科の教師をされていた真面目で繊細なご主人は、
そんな魅力的な彼女と半ば駆け落ち同然で結婚し、かわいい息子に恵まれた。
その息子さんももう19歳。(ちなみに脳性麻痺は遺伝しない)

腎臓摘出後から時々、ご主人も治療に来られるようになった。
動けなくなってからは往診も頼まれた。

入院中ずっと病室で寝泊まりしていた奥さんは、
不自由な手で暑がるご主人を、うちわで一生懸命あおいでいた。

「私は今、目を閉じると世界中を旅することができるんです」とご主人。
「どこへ行かれたのですか?」と聞くと
「今日はチベットやネパールに行きました」と嬉しそうに。

脳性麻痺の奥さんは、手を止めるとダンナが苦しがるものだから、
うちわの手を止めない。
何だか、末期癌の病室と思えないほど、ゆったりとした気が流れている。
障害を持つひ弱な体の、どこにそんなパワーが潜んでいるのか。
やはり愛の力か。
いい夫婦だな・・と思って涙がこみ上げた。

最後は、今の私の腕では鍼をすることさえ難しく、アロマオイルで足をさすってあげた。
ラベンダーの香りに包まれ、腎の経絡に沿ってさすってあげると、
ほとんど無かった意識が少し戻る。
「気持ちいいですか」と問えば、かすかに頷かれた。

彼は最小限のモルヒネのみで痛みを何とか乗り越え、
苦しまず安らかな顔で亡くなられたそうだ。
ご臨終の後、奥さんからありがとうとメールが来た時、
少しは役に立てたのかもしれないと思った。

明日、四十九日を迎える。

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Commented by seechan2525 at 2008-09-11 08:48
合掌。。。
残された奥様はきっと、お一人でも力強く生きていかれるのでしょうね。
実は私のブログでちょっとだけご紹介したハルカも、脳性麻痺で両足と右手が不自由、未熟児網膜症で全盲というハンデをもっています。
彼女は子供だからまだ色々な事が分らないとしても、その母である義妹は言います。
障害のある事は普通の事。ちょっとだけ他の人より不便なだけで、特別な事じゃない。ハルカを通してその事が分った。ハルカよりもっと不自由で大変な思いをしている方々がいる。ちゃんと会話出来て、人と接する事が出来て、元気でいる事。それだけで私は十分満足。
は〜、凄いな。。。と思ったものです。
そのハルカは先日7回忌を迎えた義母の生まれ変わりではないかと、皆言ってます。
義母は胃がんが見つかってから1ヶ月で亡くなりました。
最後はモルヒネで幻覚・幻聴を訴え、それでも初孫のハルカを抱いた思い出を胸に、安らかに逝きました。
私には見守るのみ、です。
もどかしいながらも、これが一番私にも出来る事なのかな?と思っています。
Commented by green-field-souko at 2008-09-11 12:09
読ませていただきながら、つつーっと涙がこぼれました。
ヨモギ先生は、心身とてもハードなお仕事をされているのですね。

非常識なコメントになるかもしれませんが。
自分が逝くときは、まっすぐに死を受け入れ、心を強くやさしく持ち、
よい生涯だったと周りに感謝して末期の水を飲みたい。
残していくひとが泣きすぎないように、さばさばと死んでいきたい。
が、はたして? 草子
Commented by yurikak5 at 2008-09-11 20:38
シー坊様
コメントありがとうございます。
ハルカちゃん、そうだったんですね。
でもお母さんの真実の愛をいっぱいもらって、
スクスクと元気に成長されることでしょう。
実際、障害者の親御さんには素晴らしい方が多く、
頭が下がることが多々あります。

私もこの仕事につき、病んでいる人や障害者と関わるようになってから、健常者のおごりに気付きました。
健常者も障害者も病人も、皆生きるという意味においては平等なのに、なかなか現実社会では難しいようです。
Commented by yurikak5 at 2008-09-11 20:52
草子さま
ありがとうございます。
そうなんです。医療関係者は、皆似たようなものだと思いますが、
精神面では結構ハードです。
私はいつも泣きごとばかり言ってる、ダメな先生です(笑)

一番いい死に方は、やはり眠るように老衰、または前日まで元気でポックリですね。元来死は、本人にとって非常に気持ち良いものだそうです。苦しまない死は、周囲も苦しませないと思います。そうなれるよう、日々精進です!


Commented by kero-kero4 at 2008-09-12 09:40
おはようございます^^
お話、とても心に沁みました。
ご主人も奥様も、結婚されるまでにさぞかし辛いことも苦しいことも
あったでしょうに、それをチラリとも感じさせない良いご夫婦だったのですね。

人と我が身を引き比べて、「あの人だけずるい。」と妬むのも、
「私はあの人よりもマシ」と安心することも、どちらも卑しいことですが
このようなお話を伺うと、なんと自分が甘ったれているのかと
背筋が伸びるような気持ちになります。


人を癒されるお仕事、素晴らしいと思います^^
これからも頑張って下さい。
Commented by yurikak5 at 2008-09-12 20:56
kero-kero様
こんばんは♪
コメントありがとうございます。
おっしゃる通りですね。
今自分が持っているものにまず感謝し、その中で足ることを知るということが大切だと思います。完璧な人などいませんからね。

毎日、患者さんが様々なことを教えて下さいます。
ありがたいことです。
by yurikak5 | 2008-09-10 23:12 | 東洋医学・鍼灸 | Comments(6)

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