中年という時期に差し掛かると、当然ながら年上よりも年下の人の割合が増えてくる。
様々な肩書や重い役割がのしかかってくる時期でもあり、それを日々こなさないと
仕事や生活が回らないという現実に追われ忙殺されてしまう。
例えばお父さん、お母さん、妻や夫、社長、部長、係長、院長などの役職、先生、教授等々
特に子供や部下や生徒を指導する立場にいる人のストレスは大きい。
そんな役割を明るく元気にこなされている人が、体調不良を訴え治療にみえられる。
問診で「私にはストレスなんて全くないです、日々充実して楽しいです」と
若干違和感を感じる満面の笑みで答えられるが、ベットに入ってお体を拝見すると、
心労のツボに甚だしい悪い反応が出ている。
怖いことである。それはとても。心と体が乖離している。
心は突っ張っていても、体は悲鳴をあげているのだ。
心はごまかせても、体は嘘をつけない。
毎日しんどいしんどいと弱音を吐いている人の方が、
実は軽症だったりすることもある。
そんな方が来られると、鍼に来て良かったねと、もう頑張らなくていいんだよと、
今なら重病に至る前に手を打てるから(未病を治す)、せめてここにいる時だけでも、
素の自分に戻ってくださいと、そんな思いで治療にあたる。
鍼治療には本能を取り戻す力があり、乖離した心と体が一体化する作用があると
私は思っている。
先日、長年来られている男性の患者さんが定年退職をした。
定年前は管理職で責任の重い立場におられ、毎日のように接待や会議や出張が続いた。
退職後、週二日は会社に行かれるが、それ以外はゆっくりと好きな映画を見たり、
運動をしたりして過ごされ、仕事のない日はお酒も家で軽く飲む程度である。
なんと退職後の病院の検査で、長年改善しなかった血糖や中性脂肪などの値が
急激に改善してきたそうな。
50才を境に体は変わる。若い頃のように無理がきかなくなる。
人生の折り返し地点でもある。
中年以降はひとつづつ肩書を外し、もとある自分自身に戻っていく時期なのかもしれない。
最後は地位も名誉もお金も肩書も、何もあの世の持っていくことなど出来ないのだから。